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 その女性は涙をこらえながら、壇上で話を続けていた。聴きながら、私は数年前に見た映画を思い出していた。渡辺謙が主演する若年性アルツハイマー病にかかった夫と妻の話だ。  

 スエーデン大使館で開かれたセミナーの講師の一人として招かれたのが、この映画のモデルになったといわれる患者の奥さんだった人である。「だった」というのは、残念ながら闘病の甲斐も無く昨年亡くなられたからである。  

 自分自身にいつ起こってもおかしくない事なのに、どうしても嫌なことから眼を背けてしまう。この病にかかったら、本人だけでなく家族全員が、いかに大きな負担を強いられ苦労するか、改めてその深刻さに気づかされた。  
 さて、問題はどう対処すればよいかである。ここで、登場してきたのが、まだ30歳半ばの若いスエーデン人だ。挨拶を日本語ではじめた。聞くところによると、彼は高校生の時に日本に留学したことがあるのだ。社会福祉が進んでいる自国の状況と比べ、日本にスエーデン流の福祉や介護の手法を取り入れたらよいのでは、と考えこの道に入った。話を聴いて、日本により良いシステムを導入したいという彼の情熱がひしひしと伝わってきた。  

 認知症やがんという難病にかかった高齢者の終末医療と生活をどのようにサポートするかが、この日のセミナーの主要テーマだ。知らなかった治療法あるいは緩和ケアについて、スエーデンで行われている二つ手法が紹介された。一つは「タクティール・ケア」と呼ばれるもので、手や背中などをやさしくなでたり包み込む方法。もう一つは「ブンネ法」という音楽療法である。  

 これらの手法は、関係者の努力の甲斐もあって、取り入れる施設が増えてきているという。ただ、相手の症状に合わせて個別にケアするのが良いのは分かっていても、介護する人の数の制約から、なかなか実現できないのが実情であろう。紹介された「舞浜倶楽部」が運営するホームでは、入居者3人に対して2人のスタッフを配置されているとのことで、十分な対応が期待できると思われた。

 しかし知識だけでは駄目で、接する人の心が伴わなければ、悩みを抱える人を癒すことはできないという言葉が印象に残った。



2010.07.02掲載
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